袋井フル42km(その3)

 号砲が鳴り会場のエコパのトラックからスタートした。42kmの作戦は「キロ5分30秒で走り続ける。維持できなくなったら自然に減速」である。これが「作戦」と呼ぶに値するものかは知らないが、それくらいしか思いつかないのだ。

 もし5分30秒がずっと維持できれば、ギリギリ4時間を切れてサブ4達成のはずだ。計算上は、キロ5分40秒でも42kmを4時間切りは可能である。しかしトイレや補給や曲がり道ロスなどを考えると、事実上は、キロ5分30秒がサブ4達成の最低ラインではなかろうか。そして私は、自分がキロ5分30秒を42km維持できるとは考えていない。

 以下、42キロの旅路を振り返りたい。

  • 1km 5:28 スタート地点は混んでいたので、これはわりとハイペース。
  • 2km 5:11 下り坂があったにせよ、ハイペースである。
  • 3km 5:41 上り坂でスローダウン、しかし多分これはハイペース。たしかこの辺でトンネルがあった。トンネルを走ったのは初めてだ。
  • 4km 5:51 スローダウンだが、上り坂だったのだろうか。
  • 5km 5:08 これは飛ばし過ぎであろう。

 ここで水分補給があった。持参していた男梅グミを一粒口に入れる。今回は、5kmに一度、男梅グミを一粒摂取することにしている。男梅グミで人命救助をしたこともある私に言わせれば、これが最適な塩分補給であり、広く世の市民ランナーに推奨したい。これより頻度が高いと、塩分過剰でのどが渇く。これより頻度が低いと、塩分不足である(これは危険)。参考までに、私の体重は55kgです。 

ノーベル 男梅グミ 38g×6個

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 最初の5kmは、わけもわからず駆け抜けた。坂道は練習しているので、へっちゃらだぜーと思う、というか、思い込もうとしている。でないとやっていけない。ここでしんどいなどと思っていては、この後の37kmを乗り切れるわけがない。

  • 6km 5:09 いま思うとこれはハイペースであろう。
  • 7km 5:18 まだハイペースである。
  • 8km 5:23  同上
  • 9km 5:33 気分よく走っている。

 沿道の子供とハイタッチするのが愉しい。これは本当に力が出るのだ。沿道の人たちが応援してくれるので、礼儀正しくにこにこ振る舞う。

  • 10km 5:33 やはり気分がよい。想像以上に走れている。

 計算してないが、最初の10kmはだいたい55分くらいだろうか。普段の10km大会は50分以内で走るので、これは気持ちいいペース。

  • 11km 6:52 一度目のトイレ。並ぶのに、1分20秒ほどロス。行列並び中に、携帯していた「スポーツようかん」を食べた。おいしくて高カロリー。消化されて栄養になるまで時間がかかるので、これは終盤用のエネルギーチャージ。 
    井村屋 スポーツようかんプラス40g(5本入)

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 今回トイレは10kmおきに行くことにしている。この一回だけで1分20秒のロスだ。10kmで80秒ということは、トイレに一回行くためには、毎キロ8秒の貯金が必要ということだ。おそろしい。

  • 12km 5:24 坂道だったが上りだったか下りだったか覚えてない。山だった。
  • 13km 5:06 山だった気がする。なんか小雨?だった。
  • 14km 5:16 山と谷だ。
  • 15km 5:44 水分補給したが、意外と時間を取る。20秒ほどロスしている。
  • 16km 5:16 田園地帯?だった気がする。
  • 17km 5:25 このへんも田園地帯だ。
  • 18km 5:27 いやあこの辺の家は大きいなあと感心。私も郊外のでかい家に住みたい。
  • 19km 5:36 すごい多幸感。超愛想よく沿道の皆様にご挨拶。

 不思議なもので、ハーフマラソンならこの辺りで苦しくなるのだが、今回は全くならない。ペースは決して遅くないのに、しんどくもない。多幸感が強い。大人数で、沿道の声援を浴びながら、公道を走るのは、明らかな非日常である。お祭り感がすごい。やったことないけど、岸和田のだんじりとか、こんな感じなのだろうか。たぶん脳内で変な物質がどばどば出ている。

  • 20km 5:42 おお、もうすぐ半分ではないか。この辺から山中?
  • 21km 8:52 半分の地点で、2度目のトイレ。行列が長くて、3分ほどロス。その間に携帯していた補給ゼリーを飲む。 

 おそらくこれで、終盤にエネルギー切れで体が動かなくなるハンガーノックは避けられるはず。この辺の要領は自転車で慣れているので何となく分かる(自転車のほうが、ランより、熱中症やハンガーノックに思いがけずなる危険性が高い気がする。すいません素人の印象です)。

明治 ザバス ピットイン エネルギージェル ウメ風味 69g×8個

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 トイレ待ちにかかった3分のタイムロスを、とても気にしてしまう。おい、3分削りだすのって、どれだけ大変か分かるのかよ。コツコツ貯めた私のタイムが、他人の、そして自分の排泄行為により失われてゆく。一銭単位でコストを気にする自動車会社のエンジニアが、為替変動で何十億円損失とか、そんな気分だ。自分勝手なうえ、分かりにくい喩えですまない。

 前半の21kmは、たぶんハーフの自己新ペースで走った。フルマラソンでこれは間違いなくハイペース、ミステークである。しかしミステークしない初フルというものが、果たして可能なのだろうか。42kmを均等のイーブンペースで走るのが理想だという。しかしそんな難しいこと、初心者にできるわけないだろう。どの速度がイーブンペースかさっぱり分からないのだ。

 もしかして後半も、このペースで走り続けられるのではないだろうか。そしたらまさかのサブ4だ。潜在していた欲望が、むくむくと頭をもたげる。ふふふ、やはりオレはできちゃうんじゃね? そうだよねー! 意外にさくっと4時間切っちゃいますか。

 成功のビジョンとプランが頭に描けている、気がする。だが心のどこかで、そのビジョンが夢想であり、プランは理想に過ぎないと冷静に気付いている。それでも私のなかの希望の感情は、冷静をたやすく打ち負かす。人間は希望なんかに身を投じるから悲劇だか喜劇だかのドラマが生まれるのだ。そしてここから10km走でもハーフでもない、私のフルマラソンが本格的に幕を開けた。

 ひとまずの目標は、これから1時間で11kmを走ること。キロ5分30秒ペース、32kmの時点で3時間。そうしたら残りの10kmを、1時間でクリアーすればよいことになる。結果的にこれは甘い皮算用となるのだが、何が甘いかは事後的にしか分からないのも事実である。