『東京人』8月号

 今月の『東京人』(8月号)に『多数決を疑う』の書評をいただきました。こういうライフスタイル的な雑誌で扱っていただくのは初めてでハッピーです。どうもありがとうございます。評者は苅部直先生で、砂原庸介さんの『民主主義の条件』と併せての紹介です。

 政治学の高名な先生に、政治学の優れた書籍と併せて拙著を評していただくのは、とても嬉しいです。社会的選択理論は本来、学際的な学問ですが、おそらくはその技術的な「密教性」の高さから、これまで諸分野とうまく連携できていなかった感があります。

 だから『多数決を疑う』を通じて、さまざまな人文社会科学の方々とつながれればと期待していましたし、しています。

東京人 2015年 08 月号 [雑誌]

東京人 2015年 08 月号 [雑誌]

 

 砂原さんとは先日、某省の研究会ではじめてお目にかかりました。私はそんなに社交力の高い人間ではないけれど、外に出かけると会いたい人に会える・面白い話を聞ける確率が高まるので、小まめに出かけています。また、そのような機会を頂くのはご褒美的にうれしいです。

 私にとって『民主主義の条件』は、政党について深い示唆を与えてくれる本です。案外と政治学の本は、政党の存在を所与とするというか、在るのを前提としたり、あるいはその歴史を追ったり、といったものが多いように思います。政党とはそもそも何なのかについて、教えてくれる本を探していました。この本は丁寧にその存在意義と(良し悪し両方の)機能を平易に説明してくれていて、非常に勉強になります。 

民主主義の条件

民主主義の条件

 

 私は多数決をはじめとする集約ルールの研究者です(市場も研究していますが、要するに「計算箱」の研究者なのです。メカニズムデザインといいます)。そして、何が分からないかというと、政党が分からないのです。さっぱり分からない。そもそも政党と投票は、ものすごく相性が悪いはずなのです。コンドルセ陪審定理の大前提条件「各自の判断の独立性」と、党議拘束という「各自の判断の非独立性」が真っ向から対立する。

 かりに党議拘束を法的に禁止しても、小選挙区制のもとだと党執行部の公認権が強力なので、執行部の意向に反する判断をした議員に「次は公認しないぞ」という脅しができる。では中選挙区制がいいかというと、こちらは有権者からの「落選させるぞ」という脅しが効きにくい。

 また、小選挙区制だと一人だけが当選、中選挙区制だと二人以上が当選するのだけど、前者だと明確に優れた集約ルールが設計できるのに対して、後者はそうでもない。具体的にいうと、一人だけを選ぶときにはボルダルールはきわめて優れているけれど、二人以上のときには余計な戦略的操作の問題が発生しうる(キリバス国会で生じた「クローン問題」への懸念)。

 政党を廃止するのは現実的ではないし、利点もあるので、すでに存在する社会的制約として受け止め、そのうえで「制約付き最適解」(constrained optimal)のような投票制度を構築するのが課題なのだと考えています。

多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)

多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)