暗号通貨vs国家(ボツ原稿2.ブロック秘匿攻撃)

 もう一つのボツ原稿。誰に読ませても「分からん」「面白くない」と言われた。

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 近年では、半数に満たない割合のパワーの勢力でも、一定の悪さができることが明らかになっている(Eyal, I. and Sirer, E. G. “Majority is not enough: bitcoin mining is vulnerable” Communications of the ACM, 2018, vol 61-7, pp. 95-102)。これはレイテンシーを利用するものだ。悪だくみをするマイナーAはメガ数独の解答を見付けても、すぐにはノードたちに情報を送信しない。そして他のマイナーBが情報を送信したことを察知したなら、瞬時に自分も情報を送信する。

 あるノードはAの情報を先に受信して、別のノードはBの情報を先に受信する。どちらを先に受信しようとも、マイナー(すべてのマイナーはノードでもある)はどちらのブロックチェーンの先の問題を解くか、選択せねばならない。自分がどちらを先に受信したかは、あくまでその際の参考情報である。

 悪さをたくらむマイナーAは「元のブロックチェーン+ブロックA」の先に新たなブロックをつなげるべく、この瞬間もマイニングを続けている(ブロックA’のメガ数独を解いている)。

 

  • マイナーAは、運が良ければ、一番最初にブロックA’のメガ数独を解ける。その情報を直ちにノードたちに送信する(さらに別のメガ数独を解き続けることもできるが本書ではそのケースは割愛)。それを見た他のマイナーたちは「元のブロックチェーン+ブロックA+ブロックA’」を正統視しはじめ、その先につながるメガ数独の問題を解き始める。こうして「元のブロックチェーン+ブロックB」は相手にされなくなり、ブロックBは孤立する。マイナーBがその採掘に費やした作業は徒労に終わる。

 

  • 運が良くなければ、「元のブロックチェーン+ブロックA」と「元のブロックチェーン+ブロックB」のどちらが伸びるかは、他のマイナーの選択次第である。

 

 一見マイナーAは奇妙なことをしている。だが報酬の期待値を計算してみると、この行動が意外にも割に合うのだ。他のマイナーの労力をムダにする効果がプラスに働くからだ。

 かりにいまマイナーのうち、「元のブロック+ブロックA」を選択する勢力シェアがγ=0.4だとしよう。このとき、もしマイナーAの勢力シェアがα=0.273以上あれば、マイナーAはこの奇妙な行動をするほうが、利得の期待値が高まるのである。これはイーヤルとシラーという研究者が発見したもので、任意の割合γに対して、αが

               (1/γ) / (3-2γ)<α<1/2

の範囲にありさえすれば同じことが成り立つ。

 現時点では、このブロック秘匿攻撃(block withholding attack)が実際になされた様子はなく、潜在的な脅威にとどまっている。しかしモナーコインという新種のコインに対して、レイテンシーを用いた攻撃はなされたことがある。こうしたタイプの攻撃を、ビットコインの発明者サトシ・ナカモトは予想していなかっただろう。マイナーに報酬を与えてシステムを自律させる仕組みは、分散型の仮想通貨の画期的な点だが、これには改善の余地が大きい。 

暗号通貨VS.国家 ビットコインは終わらない (SB新書)

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