暗号通貨vs国家(ボツ原稿1.サトシビジョン)

 拙著『暗号通貨vs国家』(SB新書)の「ボツ原稿」を、これからいくつか置きます。何となく「難しいかなー」「余計かなー」「ここ事実は不明かなー」など複数の理由があって、最終段階で削りました。なので本のほうには載っておりません。

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分裂とサトシ・ヴィジョン

  ビットコインがオープンソースである以上、ハードフォークが起こるのは止められない。とはいえBCHのハードフォークには、それまでビットコインが蓄積してきた信頼やブランドを削り取るようなところがある(Benjamin D. Trump, Emily Wells, Joshua Trump, Igor Linkov “Cryptocurrency: governance for what was meant to be ungovernable” Environment Systems and Decisions, 2018 Vol. 38, pp. 426-430)。

 BCHは人気の面で成功しており、時価総額は4位である(https://coinmarketcap.com, CoinMarketCap 2018/11/04)。日本の大抵の取引所で購入できる。

 ビットコインキャッシュ以後も、ビットコインからのハードフォークによる新コインは誕生している。ビットコインゴールド(BTG)やビットコインプライベート(BTCP)がその例だ。いずれもビットコインより1ブロックあたりの格納量が多いが、ビットコインほど人気はない。声量が豊かなだけの歌手にファンが集まらないようなものだ。

  18年11月には、BCHからのハードフォークで、ビットコイン・サトシ・ヴィジョン(BSV)なるものが誕生した。もはや宗教の分派のようだ。BSVのブロックサイズは128MBの大容量だが、ありがたみが増しているのかは不明である。

 BSVのハードフォークを主導するのは、クレッグ・ライトというオーストラリアの事業家だ。かつて「サトシ・ナカモトの正体は自分だ」と主張して、物議を醸した人物である。主張の証拠は乏しく、現時点ではクレッグは「自称・神」の座にとどまっている。サトシのヴィジョンをBSVで実現することで、クレッグは自らのあかしを立てようとしているのかもしれない。神であるサトシが姿を消してしまったので、やりたい放題する奴が出てくるのだ。

 ハードフォークの後、BCHとBSVは醜い争いを繰り広げた。互いに大金を投じて、相手のブロックチェーンの再編成を狙ったのだ。これをハッシュウォーという。バカみたいというか、ひどい愚行である。仮想通貨全体の信用を下げることなので、どこか余所でやってほしい。

 結局BCHは争いをおさめるべく「再編成プロテクション」という仕組みをソフトウェアに導入した。これは再編成が起きても、それを無視するための仕組みだ。あるブロックが接続されてから10ブロック延伸した後は、そのブロックからフォークした枝が最長にまで伸びても正統な台帳として扱われない。

 しかし後から伸びた枝でも、最長である以上は最大のハッシュパワーが注ぎ込まれているのだ。つまり再編成プロテクションは、作業量こそを正統な帳簿の証明とするPoWの否定である。

 ハッシュウォーは終わったが、BCHは、PoWを捨て去った。これは致命傷になるだろう。いくら支持者がこれまでのように「BCHこそがビットコインだ」と言い張ったところで、もう通らない。もはやBCHはビットコインとまるで別物になってしまったのだ。 

暗号通貨VS.国家 ビットコインは終わらない (SB新書)

暗号通貨VS.国家 ビットコインは終わらない (SB新書)