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周囲の出版ラッシュ

 周りの人たちが次々と本を出している。どうしてこの人たちはこんなに書くんだろうと思う。あんまり周りの人が成果を出すと、私がしんどい気がしてくるので、ほどほどにしてほしい。ワークライフバランスはどうなっているんだ。以下、出版日順です。

 まずは井手英策さんが『18歳からの格差論』(東洋経済新報社)を出された。井手さんと東洋経済の人が密接に会っていると感じていたが、まさかこんなに早く出版するとは。「です・ます調」の柔らかい文体と聞いていたが、彼のようにハードな御仁がソフトな語り口などできるのだろうか?

 結果からいうと、でき過ぎであった。表紙を見ただけで、売れそうな雰囲気がビシビシ伝わってくる。内容も良いことが、紙を触っただけで分かる。思想と構想が凝縮されているから、「こういう本」と一言では紹介しにくい。

 イラストで本人が出てくるが、似ていると思う。「はじめに」の7頁では穏やかで柔和な表情だが、あとは険しい表情もよく出てくる。白と青の二色刷りに、優しい風合いのイラストが多く載るが、本書の厳しい内容を甘くしていない。イラストレータの田淵正敏氏は、議論を的確につかみ、見事な仕事をしていると思う。全体的に、東洋経済新報社の本気を感じる。

18歳からの格差論

18歳からの格差論

 

 そして宇野重規さんが『保守主義とは何か』(中公新書)を出された。先月の『政治哲学的考察』(岩波書店)に続いての公刊だから、働き過ぎではないだろうか。まとまったヴァケーションが取れるよう、勝手にお祈り申し上げます。

 オビは「本流を知れ」で、こちらは中公新書の「ウチはこういうのを出せますけん」なプライドを感じる(すいません私が勝手に感じてるだけです)。昨日から通勤中に読み始めた。

 保守主義とは何か? 保守とリベラルという対置ではなく、保守と進歩の対置から話ははじまる。急進的な変革を楽天的に求める進歩に対する牽制としての保守という、元来の保守の役割を考えれば、進歩の理念が失われつつある今日、保守の位置付けが大きく揺らでいる。それゆえ「保守主義」を、その来歴を踏まえながら、今日的に再定義する必要がある。こうして書題の「保守主義とは何か」という問いかけがはじまる。

 なんとクレバーな問題の立て方だろう。宇野さんほどの碩学と比べるのはおこがましいが、私には到底できないものの考え方である。当分のあいだ、私の通勤の友。

保守主義とは何か - 反フランス革命から現代日本まで (中公新書 2378)

保守主義とは何か - 反フランス革命から現代日本まで (中公新書 2378)

 

  松沢裕作さんが『自由民権運動』(岩波書店)を出された。岩波新書の王道を行く一冊だ。この本の公刊は、以前から界隈で――どの界隈か分からないが私の棲息する界隈――話題になっていた。私は草稿を読ませてもらっていたが、もちろん本の形になると印象は変わる。

 ページをめくって、字が目に入ったとき、まず最初に、「あああ、これは松沢フォントだ、こだわりやがった」と思った。侘び寂びの効いたたたずまい。たしか彼の活版印刷の名刺のフォントもこんな感じだった。これだけで「やられた感」がある。私はこのフォントに民権運動家への鎮魂を感じる。これは私が勝手に感じるだけだが、フォントも文意には作用するのだ。

 「自由民権運動」という言葉から今日の私たちが想像することと必ずしも一致しない、当時に自由民権運動と呼ばれていたものの姿と人間の情念が、本書ではえがかれる。明治政府を揺るがした未曽有の国民運動における、人々の熱意と希望のゆくえ。政府と民権派の対抗関係は、やがて「何をやるか」の競争ではなく、「誰がやるか」の抗争になってしまう。「お前たちにやらせるのは気に食わない」に転じてしまう運動の顛末。ああ、なんかその気持ちよく分かる。民権派の栄光と悲惨が語られる。

自由民権運動――〈デモクラシー〉の夢と挫折 (岩波新書)

自由民権運動――〈デモクラシー〉の夢と挫折 (岩波新書)

 

 以上のお三方と、今度、某社で一冊の本を作る。企画会議は通ったが、まだ一字も存在していないので、詳細を語れる段階ではない。たぶん夏ごろ書くのだろう。私は若いとき、自動書記のようにものが書けていた。夜中に小人さんが勝手に仕事をしてくれる感じで、あれは実にラクだった。最近はリアルな自分がせっせと書いているから、辛い。

 さて謙遜でも何でもなく、この人たちは私より文章が(格段に)うまい。知らない人の見事な文章を読むと「ああ自分もこんな風に書きたいなあ」と思うが、知っている人だと「もう自分は書かないほうがいいんじゃないか」と思う。

 だがもう書いてしまったものは仕方ない。そして威張るわけでも開き直るわけでもなく、文章は上手ければよいというものでもないのだ。美味しいものばかり食べていたら飽きるだろう? そんなあなたにおススメしたい拙著『決め方の経済学』(ダイヤモンド社)が、6月30日に書店に並びます。食べやすさを追求したつもりなので、消費してほしい。

「決め方」の経済学―――「みんなの意見のまとめ方」を科学する

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