ハンストと多数決

 一カ月ぶりの更新です。日々の暮らしに追われているとなかなか更新できません。ランもロードバイクもろくにできておらず、体脂肪率が7%から9%に上がりました。とりあえず今日は岩波『科学』7500字の締切です。昨晩、原稿をほぼ完成させて、これから改訂して、昼過ぎに編集部に提出します。なのに、なぜいま(午前10時)ブログを更新しているのか? 締切を守れそうで安堵して、気持ちがゆるんでいるのだと思います。ちなみに午後からは日本経済新聞「経済教室」3000字を書き始めます。三年ぶりの「経済教室」登場で、ゲーム理論的なポリエコについて書く予定です。

 今回は「7500字の原稿」をはじめて書きました。雑誌だと「2000-3000字くらいの原稿」が多いので、これは長めです。この長さはまだ自分の「型」がないので、流れを作るのが意外と難しかった。私は3000字だと「導入、内容1、内容2、締めくくり」のような型がある。起承転結のようなもの。これが2000字だと「導入、内容、締めくくり」になる。

 今回は導入に、安保法制反対の学生によるハンストを取り上げています。ハンスト時間が長くないことを揶揄する人がいるけど、むしろ長くなくていい。「餓死寸前までやれ」というのは、「一億総玉砕」や「社畜精神」と同根の精神主義ではなかろうか。だいたい「正しいハンスト」「ハンストの作法」なんて、決まったものがあるのか。いちいち社会運動のハードルを上げなくていい。

 というわけで彼らは、好きなようにやったらいいし、適当にご飯とかおやつを食べればいい。以下、その導入の節を貼っておきます。そこではハンストする学生氏のツイート「多数決で政治が決まるなんて、民主主義ではないです」を扱っています。これ、なかなか挑発的でいいですね。彼の真意は存じませんが、この挑発の内容は真剣な考察に値するものです。

 以下の文章の続きに関心がある方は、ぜひ岩波『科学』10月号(発売日は9月28日あたり)をご覧ください。『科学』おすすめ。私は7月号にも多数決論で寄稿したのですが、そちらでは社会的選択理論に基づく、「橋下的言説」への批判をしています。

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岩波『科学』10月号掲載予定の原稿の導入文「多数決と民主主義の区別」(未定稿)

坂井豊貴

 

 安保法制に反対しハンストをする学生がツイッターで「多数決で政治が決まるなんて、民主主義ではないです」と述べた。これに対する嘲笑的な態度がネット上に散見されるが、いずれも彼が提示したステートメントに、正面から対峙できていない。むしろそこには論理立てた否定ができないからこそ、嘲笑で何かを済ませた気になろうとする姿勢さえ見てとれる。

 次のように言い換えてもよいだろう。彼は多数決と民主主義をめぐる挑戦的なステートメントを、挑発的に述べた。それに挑発されたひとが、反感を嘲笑の形で表してみたが、挑戦に応えることに失敗した。あるいはそこに挑戦が込められていることを見付け損ねた。だが、おそらくはかの学生が直観したのであろうそのステートメントは、真剣な考慮に値するものだ。

 なるほど多数決こそが民主主義だという考えを採用するならば、そのステートメントは容易に否定の対象となろう。だがそのように、多数決をいたずらに有難がる立場のことは、多数決主義(majoritarianism マジョリタリアニズム)という。そしてこれは、「被治者と統治者の同一性」を根本理念とする民主主義とは、かなり異なるものである*1

 すなわち、かのステートメントには少なくとも二重の意義を認めねばならない。まずは多数決主義と民主主義とのあいだにある深い亀裂を指し示したこと。そして、にもかかわらず、両者は混同され多数決イコール民主主義のような言説がまかり通っていること。多数決はあまりに社会で当たり前に使われているが、その性質や使い方に深い思慮が払われることはほとんどない。

 概念整理から始めよう。多数決は、得票数が一番多い選択肢を勝者とする「決め方」だから、制度である。民主主義は「主義」というくらいだから理念だろう。制度と理念は別次元の概念だから、そもそも両者はイコールで結ぶことができない。すなわち多数決イコール民主主義というものの言い方、および両者を自明に結び付ける視点は、最初からズレている。

 さて、理念は人の頭にあるものなので、それ自体では社会で実現しない。実現には制度が必要である。すなわち私たちが問うべきなのは、多数決という制度は、民主主義という理念を実現するのに、はたして適しているのかということだ。〔以下、本文へ続く〕 

多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)

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科学 2015年 07 月号 [雑誌]

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*1:岩波『哲学・思想辞典』は「民主主義」の項目に1頁半を使っているが、端的にまとめるとこのようになる。